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今だって、朝の台所からお母さんがおみおつけに入れる大根を千六本に切るトントントンというリズムカルな音が目覚ましという家が残っているかもしれない。
でも、その音に混じってカチッカチッという「切り火」の威勢のいい拍手が響く家なんて、もう探しようがないだろう。
我が家にしても、切り火、拍手は父の代でおしまい。
切り火は、朝一番に茶の間の神棚への拝礼のときの儀式のようなものだった。
祖父や父は、顔を洗い、口を漱いでから神棚へ向い、榊の水を取替え、お供えの水とお灯明を捧げ、それから火打ち石を売ってお浄めをし、拍手でもって祈念する。
それから仏壇に行き、お水を取替え、炊き立てのご飯を供え、お灯明を点し、お線香をくゆらせてお経を一節くらい唱える。
こうした神仏への挨拶がすまされたのちに、家族は朝ごはんがいただけた。
※冒頭を抜粋。『代々木』をお読みになりたい方は、崇敬会にご入会ください
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はやし えりこ
東京の本郷湯島生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。『愛せしこの身なれど―竹久夢二の妻他万喜』『ぶんや泣き節くどき節―岡本文弥新内一代記』『仮装・東洋のマタハリ川島芳子』『結婚百物語』『福澤諭吉を描いた絵師 川村清雄伝』『東京っ子ことば』、大衆文学研究賞を受賞した『川柳人 川上三太郎』など著書多数。
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