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寄稿「私と武道」
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 私は今回の滞在にあたり、二つの目標を定めました。一つ目は、武道の研究を深めること、特に武道と神道との関係をより深く知ること。二つ目はそうした武道を他の外国人に対してどのように教えれば良いか究明することでした。

 今まで行なわれた稲葉前館長や荒谷館長のご指導による海外武道講習会の前後には神道のお祭りが行われていました。しかし、それは西洋人の目に不思議に映りました。「何のためにそのお祭りをするのか?」「どうして稲葉先生は神道や天皇についてそんなにいろいろ話をするのか?」「日本人ではない人々にとってどんな意味があるのか?」そういう質問がなされます。

 稲葉先生はそこをはっきりと説明されました。参加者を神道に改宗する目的で話しているのではありません。しかし、稲葉先生の武道の威力は先生の神道信仰に深く根付いています。

 稲葉先生は西洋人の私達に、私たち自身の文化や信仰に基づく自分の武道を作り上げるというチャレンジを言い続けています。先生はその過程を応援するために、先生にとっての神道の意味を私達に伝えて下さいました。そういう意味で今回の滞在中の授業はとても勉強になりました。

 JWT Masonが書いている『かんながらのみち』という本のお蔭で、神道と私の信仰であるイングランド国教会といくつかの共通点と違いがわかるようになりました。それらのすべてはここに挙げられませんが、特に気がついた点や武道に関係ありそうな点を数点を挙げます。

 「神道においては、(人間を含めての)物質と創造的神霊との間に分離はない。すなわち、神道には二元論は存在しないのである」(MASON)

 キリスト教では、アダムとイブのエデンの園からの追放のように区別を感じる表現があります。また、全知全能の神・万能の神の概念も存在しています。神と人が別々であるという考えですが、聖書の中に、イエスの死と復活によって、人と神が一体になったという引証もいくつかあります(神と人が一体であるという事も聖書に書いてあります)。従って、違いも共通点も(両方)あると思います。

 私は、個人的に私達が皆神聖な生き物であると感じています。

 キリスト教では「罪の赦し」(カトリック教の「告解」)という概念がありますが、それに対し神道は、過去の行動を贖罪し、悪業を乗り越える責任を個人に与えます。神道の神秘主義や自然と先祖に対しての敬意はキリスト教の表面によく見られる部分と違いますが、キリスト教の日本ではあまり知らされていない部分では、もっと神秘的な面もありますので、その辺は神道との共通点が多いかも知れません。

 私は、東京の忙しい世界の中のオアシスである明治神宮の美しさと静けさを毎日楽しんでいました。

 神道の考えの中の、「選択の自由をもって自己創造的神霊」(MASON)という発想は気に入りました。「神霊は正道のみでなく、邪道も辿り得る」(MASON)キリスト教は、自然の災害や悪行を「ゆるす」全知全能の神の問題で苦労しています。神が万能だったら、どうして手出しをしないのですか?「神の意志です・神の計画です」という言い方にどんな意味があるのでしょうか。 

 神道は直感的で、西洋の考え方ほど分析的ではありません。稲葉先生や荒谷館長や至誠館の指導員の方々の武道の教え方は分析的な考え方より一対一の指導方法に合います。体の技も大事だろうし、いろいろな細かい点がありますが、一対一の稽古の中には単なる体の技以上の感触が伝わってきます。その感触は、先生方々や指導員と稽古以外の時間も一緒に過ごせば、その感触はもっと強く感じます。道場外で悪質な生活をすれば、稽古内で手本を示せないという事を、先生方々や指導員が示しています。

 それらの大切さは、長年の至誠館へのさまざまな訪問を通じて、よく理解できたと思いますが、それを他人に教えることができるようになるのは、大きなチャレンジですし、今ようやく教える過程の感覚を得始めているところだと思っています。教える時は、流れを保つのが大事で、たくさんの細かいことを直すために相手の動きを止めるべきではなく、一番重要な点を一つか二つ選んで、その時その点だけ集中すればいいと思います。また、手本を示すことができるようになるのは、これよりずっと難しいチャレンジです。一生頑張り続けなければなりません。

 もう一つ興味深かった点は、天皇の意義を見直すことでした。ちなみにMasonは次のように書いています。「日本において、すめらみことは、みな同じく天孫たる家族からなる神霊的家庭の家長だ(という意味において、国民の首長である)」

 国際神道文化研究所の伊藤さんが見せてくれた、天皇・皇后両陛下の地震などの災害後の災害地への御行幸のDVDにもたいへん興味を持っています。イギリスの女王といくつの似ている所がありますし、人々の対応にも多くの共通点がありますが、天皇陛下に対しての敬意と天皇陛下の精神的な力・霊力は、イギリスの女王より、ずっと大きい気がします。

 明治天皇、昭憲皇太后、歴代天皇を神社で祀ることはキリスト教の聖人といくつか共通点があるかも知れません。また、いずれにしても、明治神宮のご祭神のご聖徳や業績は、世界の人々に徳の道を示しています。特に印象深かったのは、五箇條の御誓文でした。そして、明治天皇が、五箇條の御誓文の発布の時、15歳のお若いお年だったと聞いた時は、とても驚きました。

 聖徳記念絵画館に行った時、伏見鳥羽戦では、イギリスが新しい政府を応援する軍隊を支援したと聞いた時は、嬉しかったです。

 対訳本のもう一つの強い印象が残った話は、西郷隆盛についてのエピソードです。西郷隆盛は、西南戦争の行動にかかわらず、明治天皇に、明治維新に貢献した人として認識されたことが印象深かったです。なぜか分かりませんが、その場面は、西南戦争をテーマにした『ラスト・サムライ』という映画と、国際至誠館武道協会(ISBA)のアドバイザーの稲葉先生の姿を思い出させます。誰がトム・クルーズなのかはわかりませんが。

 明治神宮や至誠館がすばらしい環境としてあり、それらを訪問者・参拝者のために、人々が協力していることに感動しました。ほんのわずかでしたが、時々至誠館の外の落ち葉を掃くことなどの小さな行動によって、全体の努力に少しだけでも寄与できたと嬉しかったです。日本ではよく見られる、自分をおさえて社会の規則に従う概念はたくさんの利点がありますし、よく整頓した社会の印象を得ました。

 西洋のアプローチは日本より個人が中心になり、個人主義的で独善的な行動になる場合があります。しかし、それにかかわらず、いずれのアプローチも利点があります。日本の社会は、外の人に対してかたい場合がありますし、日本の社会の一部分の人は生活が大変だと知っています。

 私達西洋人は、たぶん武道のメンバーであってもかなり気軽で、インフォーマルであっても許されますから、この15年、20年の間に稲葉先生に影響を与えたと思っています。稲葉先生は確かに変わりました。敬意と真剣さの良いバランスを取るのは大事ですが、人生と武道は真剣さだけではありません。

 西洋人のなかには、日本人より日本人的になるように頑張ってしまう人もいますが、それは必要ではありません。時々私達の違いを楽しみながら、お互いの理解と尊敬を求める事が大事だと思います。それは、皆の利益のために新しい方向性を生み出す創造的「ムスヒの神」である「むすび」の例だと思います。それが、ISBAが理解し、普及すべき基本方針の一つであると、強く信じています。

 近代生活の中で我々全員が直面している大きな問題は、科学技術の変化やそれが伴う社会的圧迫に対応することです。インターネットの広がりの結果で、バーチャルな関係・行動が増えていますが、それが不誠実な行動を招いています。人々は、実際には絶対しないことをインターネットで気楽に行います。テレビやコンピューター・ゲームにおける暴力的な行動や性的な行動を見る人は、そこで表現されていることは実際の生活にも影響を与えるということが分からなくなる場合があります。

 若い世代はお年寄りに対しての尊敬を失っていると共に、自己中心的な行動をしています。そしてそれは、確かにイギリスのような国では大きな問題なのですが、日本でも問題になっていると分かりました。 至誠館のように、強い精神的基盤と強い肉体や基本を用いて教えられている武道は、皆にたくさんのいいことを与えることができると信じています

 そのチャレンジ・課題・問題は、武道の指導者として感じていますが親としてもさらに強く感じています。私の子供にどのように手本を示せばいいか。子供をどのように、創造的な、充実した、世の為になる、社会のメンバーとして育てればいいか。至誠館の子供の稽古に参加する機会を与えて下さって、特に嬉しかったです。ロンドンに帰ってから、子供の稽古のクラスを始めたいと思います。

 体の面でも、私の武道が進歩したと感じています。そして、精神的な入力情報をたくさんいただいて、それを完全に処理するのは時間がかかりそうですが、その過程はもう始まっています。ここで習ったことを持ち帰り、復習する責任を感じています。そして、私のキリスト教の信仰等も、もっと勉強しなければならない責任とその難しさも感じています。また、さまざまな穢れを祓わなければなりませんので、荒谷館長の「禊精神」を持ち帰ります。


ロバート・カウハム=1962年生まれ。ロンドンで武道場を運営、指導している。合気道四段、鹿島の太刀中伝。ITコンサルタント。

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