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寄稿「私と武道」
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前置き
 平成24年に来日した時、私は、日本の伝統文化と現代文化についての知識と経験を広げるため、六本木にあるデザイン美術館を訪れました。

 その時に開催されていた「テマヒマ展〈東北の食と住〉」では、その前年、大震災の被害を被った東北の人々が、長く厳しい冬を越す中で、繰り返し根気よく行われる「手仕事」の作品や映像を目にし、深く感銘を受けました。建築とデザイン分野で世界的に権威のあるイタリアの『ドモスウェブ』という雑誌は、この展覧会を次のように高く評価しています。

 「この展覧会は、我々の真実を見つけようとする欲求を駆り立てる。そして、私達と自然のサイクルを再び結び付ける。また、私達が自らの手でものづくりをしたいという衝動を呼び起こす」

私が目指す武道精神
 研修初日の正式参拝の後、私は明治神宮のおみくじをひかせて頂きました。それは昭憲皇太后の御歌「鏡」でした。

 朝ごとに むかふ鏡の くもりなく あらまほしきは 心なりけり

 この御歌が意味するのは、武道の稽古を通して私の魂の鏡を磨き、曇りない素直な気持ちと真心を持って進んでいくことだと感じました。

 御嶽山の武道合宿では、毎朝の禊で身体的、感覚的、精神的体験を通して、本物のコミュニティーを築く大切さを学びました。また、武道の練成を通して得たグループの結束意識と仲間と支え合う意識を英国の社会でも、自分と皆のために築き上げたいと強く思っています。

 禊はまた、自然の厳しさを受け入れて寛容する心を教えてくれました。私にとって、自分とは違う価値観を受け入れて寛容することはなかなか容易ではありません。ですから、価値観の違いで衝突が起こったときには、相手も自然の一部であることを思い起こそうと思います。あの滝を頭に描いて、相手の言動は自然の産物であると考えれば、自然と寛容になり、互いに同意できる結果が見つかるのではないかと思います。

 禊の体験や自然の中に身を置くことで、純粋で清い心が育てられます。誰かと対立している時にもそのような心を保てば、躊躇することなく良い行動がとれるのではないかと思います。

 私の武道精神は、英国の緊迫した社会の様々な圧力に堪えられなければなりません。また、困難な状況下においても純粋で清い心を育むことにより、倫理的な意思決定をして、後悔のない行動に繋がることができるようになるでしょう。

 これらが私の目指す武道精神であり、それを武術の稽古と重ね合わせることで、社会の絆を切り裂こうとする人々から、私のコミュニティーや国に暮らす最愛の人々を守る心構えができるようになると感じます。

 世代を超えて繰り返し再生することで、常に変わらない、みずみずしい姿をめざす「常若」という日本語を学びました。私自身、至誠館において神道と武道を日々体験することで、古い習慣を脱ぎ捨て、常に新しい自分をめざして稽古に励むことが出来ています。

 2泊3日の伊勢・吉野研修旅行では、伊勢神宮の内宮にて御垣内(みかきうち)参拝を行いました。その時、私の心が大きく広がり、生きている実感が沸いたことをはっきりと覚えています。もしかするとそれは、高い木々に囲まれた浩々たる敷地の中で際立って質素なデザインのご本殿を目の当たりにしたせいか、それとも遷宮がなされて間もないため、新しいエネルギーを感じたせいかもしれません。参拝の間ずっと、目に映る辺りの木々とその匂い、さらに、鳥の声と足元の玉砂利の音に、すっかり魅了されました。

「テマヒマ」をかけてつくる社会の絆
 私は本研修と研修報告のテーマは、「テマヒマ」と名づけていました。なぜなら、明治神宮と武道場至誠館において、日本の文化、自然、神道、そして武道の体験を通して、真実を見つけ、自然のサイクルと再び繋がり、自分の手でものを作ることができると思ったからです。

 東北の田舎で手工業を営む人々が、質素な生活で容易でない仕事にもかかわらず、日々自分たちがやるべきこと、作るべきものをしっかりと把握して一日一日を生きておられる姿に、私は胸を打たれたのでした。彼らは、複雑な現代社会に気を散らされることはありません。朝起きて、納得いくものを作り、価値あるものが作れたかどうか確認して一日を終えるのです。研修生活では、まさにこのような日々を過ごすことができました。価値ある何かをつくる、矛盾のない日課を経て得られる人生の確信です。

 日本の文化には、英国、特に私の住むロンドンと比較すると、他人に対する思いやりとコミュニティーの統合力が存在します。日本人は気がつかないかもしれませんが、他人への配慮や思いやりの文化は、日本社会の隅々まで浸透している神道のお陰だと私は確信しています。ロンドンで繋がりを感じられない理由の一つは、他人に対する無関心と、異なる民族が異なる考え方を主張する時に起こるコミュニティー意識の欠落でしょう。

 人生の意味を探求し、文化に根付くことで自分自身の同一性と自信を築くため、私は神道を学び、武道を鍛錬していく道を選びました。中国の先祖伝来の思想も、祖先を崇拝し、自然や人々との親交を大切にする考えであり、非常に神道と類似しており、私はこれが人間の存在する本来の意味であると思います。

 まずは、私(香港生まれ)が受け継いだ中国の歴史を見直したいと思います。その上で、神道と武道における私の知識を、現代の英国社会の困難な状況下でどのように役立てられるかを探求したいと思います。

 英国の人々の生活には精神性がなく、また地域の人々や自然との絆も欠けています。これらの価値観は、物欲や金欲にすり返られているでしょう。真実は、英国の自然や季節のサイクルを再認識し、武道の稽古など共通の目的を持ったコミュニティーを築くために時間をかけることであり、現代の複雑な社会よりもずっとシンプルなのです。

 最後に、将来における私の心からの願いは、純粋で落ち着いた心を持つ人々で溢れた自然の中にある場所―その場所に、武道の稽古をして、自然への畏敬の念を持ち、季節と再生を繰り返す自然のサイクルに基づいて生きるコミュニティーを築くことです。そして、私の祖先との繋がりも新たに認識し、親孝行をして、次世代に伝えるべき大切な価値観について考えていきたいと思います。




スタン・リー=1979年生まれ。武道との出会いを経て、エンジニアから福祉関係の仕事へと転換。現在は主に自閉症を患う子供を持つ家族のサポートに努める。英国の鉄心館道場にて武道の修養を積む。合気道四段。鹿島の太刀初伝。

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