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コラム「大和心」

 尖閣諸島沖の衝突映像流出事件では、おそらくは政府の予想をはるかに超える国民の政府批判が巻き上がっているのではあるまいか。 批判の論点は2つある。一つは政府の情報管理の問題、もう一つは流出した映像を国民に秘匿すべき情報としたこと。その上で、この映像を流出させた海上保安間官の行為に対する政府の対応への批判だ。

 今回の問題の論点は、いずれも「人間としての正義感の問題」といってもいいだろう。 仙石官房長官等現政府の有司は、当初は国家機密の漏洩のごとき言い方をしていたが、現在は捜査関係書類の流出に論点を変えたことから、流出した映像が国家機密に値するかどうかという議論は回避し、自らが管理責任を有する行政機関の規律維持に正当性を求めているようだ。これによれば、海上保安間の行為は公務員としての規律に反する行為だというわけだ。
 一方、映像を流出させた海上保安官は、政府による映像の秘匿は不当であるとの前提で、尖閣諸島沖で起きた事実を広く国民に知らしめることに正当性をおいていると思われる。

 『悪法も法である』という言葉があるが、この解釈は「悪法だとしても法には従わなくては秩序が維持できない」という立場と、「悪法も法である。しかし、そのような法に従うことは不道徳・不正義なことだ」とする立場がある。
 「規則で定めたらそれは正義」とするか、「正義は人為的規則以前に存在する」とするか。前者の立場の者は、正義とは社会の実権を持つ者(集団)がその時々に規定するものと考えている。後者の者は、正義とは時を超えて不変のものと考える。これは、議論しても答えは出るまい。まさに正義感の問題だからである。

 私は、海上保安官や警察官は、一国民としての権利を捨てて自分以外の国民の生命と安全等人権を守ろうと決意して入ったと信じる。自衛官は、国の独立等国家主権を命に代えて守ろうと決断して入隊したものと信じる。そうであればこそ、当然、政府が発出する命令は常に国民の人権と国家の主権を守るという絶対的信頼の下、自己の犠牲を顧みずに服務するのだ。
 しかし、政府が、その信頼を裏切るような言動行為をとった場合、当然、彼らは国家公務員である以前の尊厳ある日本人、正義感にあふれる一人間として、政府の命令指示を吟味判断せざるを得ない。法規絶対主義に立つ者がなんと言おうと、それを止めることはできない。それは情報管理などの問題ではなく、人間の正義感の問題なのだ。

 孔子は、国政の要素として、食(経済)、兵、信の三つを挙げたが、特に最後の『信』だけは国が滅びるに際しても捨ててはいけないといった。
 政府が国民の信をなくして国政などできるはずがない。この時点で、今回の事案の真相を知るものではないが、仮に、武人たる海上保安官として、政府に対する不信極まった上での義挙だとすれば、まじめな海上保安官をして不信を抱かせた政府の行為に問題があり、当然その責任は政府にある。
 しかし、この海上保安官のみならず大多数の国民の不信が、単に現在の政府ではなく、戦後構築された日本の権力構造全体に対するものだとすれば、さらに事は重大である。

 私は、今回の事件から、ちょうど40年前、市谷台でおきた三島由紀夫大人(うし)の自決を思い出さずにはいられない。その『檄(げき)文』には以下のように記してある。

 (前略)「自らを否定する憲法を守れ」という屈辱的な命令に対する、男子の声はきこえては来なかった。かくなる上は、自らの力を自覚して、国の論理の歪みを正すほかに道はないことがわかっているのに、自衛隊は声を奪われたカナリヤのように黙ったままだった。

 (中略) 諸官は任務を与えられなければ何もできぬという。しかし諸官に与えられる任務は、悲しいかな、最終的には日本からは来ないのだ。

 (中略) この上、政治家のうれしがらせに乗り、より深い自己欺瞞と自己冒涜の道を歩もうとする自衛隊は魂が腐ったのか。武士の魂はどこへ行ったのだ。魂の死んだ巨大な武器庫になって、どこかへ行こうとするのか。

 (中略) 生命尊重のみで、魂は死んでもよいのか。生命以上の価値なくして何の軍隊だ。今こそわれわれは生命尊重以上の価値の所在を諸君の目に見せてやる。それは自由でも民主主義でもない。日本だ。われわれの愛する歴史と伝統の国、日本だ。

 今回の尖閣諸島沖の事件は、今あらためて、日本人は何を正義とするのか問い直されるときがきているように思う。(あ)

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