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コラム「大和心」

伝統的地方村落の美徳

 東日本大震災において、伝統的地方村落の強固な結びつきが多くの人々の生命を保全し、また、被災後の精神的支柱としてきわめて重要な役割を担っているということを確認することができた。

 お互いが自分のことより共同体の人々を思い気遣う、この美徳を養ってきた日本の伝統的地域村落は、まさに長い長い時間をかけて自然形成的に構築されてきたもので、歴史的人類の遺産といってもいいだろう。これは、社会契約や理論の啓蒙とは全く次元の異なるもので、祖先からの継承により地域の生活慣習として定着した美徳の秩序である。

 明治21年、明治天皇は、市制町村制の法律施行に先立ち、「市制町村制上諭」において『朕、地方共同の利益を発達せしめ、衆庶臣民の幸福を増進することを欲し、隣保団結の旧慣を存重して益々これを拡張し、更に法律を以て都市及び町村の権義を保護するの必要を認め、茲に市制及び町村制を裁可して之を公布せしむ』と臣民に諭し告げられた。

 ここでは、我が国の有史以来村落における美風として継承されてきた、神社を中心とする村や部落の共助団結の生活を核心に、地方から国家団結の基盤を育成し確かならしめんとする大御心が拝される。

 さらにまた、この伝統的地方慣習を法制化するには、次のようなお考えがあったようだ。

 一つには、国民の自主自立精神の涵養である。明治維新において、海外列強の殖民政策の強圧的威力の前に屈した幕政を改め、廃藩置県の詔に『内以て億兆を保安し、外以て万国と対峙せんと欲せば、宜く名実相副ひ政令一に帰せむべし』とあるように、国民の保安をはかり、万国と対等の立場を得るため強力な中央集権化を図ったが、これにより、地方自治においては、国民の自己責任感を鈍らせ、あるいは政府に対する依存心を助長し、さらには不平不満の念を強くさせることとなった。このような状況に鑑み、伝統的共同体意識を回復して、責任ある公共心による地方自治を促そうとしたのである。

 もう一つは、わが国において政党政治が始まるや否や、激烈なる政争が惹起し、集団的政治闘争が中央から沸き起こった。この中央における政争の波が直接地方に波及することをできるだけ避け、地方住民の平和な日常生活の中に持ち込まぬようにとの思いであった。

 戦後憲法は、地方自治をあえて憲法の条項に加えることで、地方自治の主体性を確保するとしたが、実態はその逆で、法制上の強力な中央集権により、地元の人々の責任ある公共心に根ざした地方自治を鈍らせ、中央への依存心を膨らました。また、政党間の党利党略による政争が地方に波及し、村が真っ二つに分かれて対立し、心の深い溝ができてしまった例もある。

 今話題の原子力エネルギー政策などはよい例である。中央が進める原子力エネルギー政策は、財政に苦しむ地方に巨額の経済的支援をちらつかせ、原発推進派と呼ばれるグループを形成して、反原発を唱える人々と戦わせて推し進めてきた。

 それによって、伝統的村落内にあっても、意見の対立による心の溝が生まれたケースも少なくない。さらに、一旦、原発施設を受け入れると、どっぷりと中央依存型のシステムの中に組み込まれ、原発関連の支援金に依存することで相互共助の必要性が薄れた。こうして、村落は原発を中心とした町と化し、地域の伝統的精神基盤は変質を余儀なくされてきた。

 このようなことは、原発に限らず、米軍基地問題や都市開発政策などあらゆる正面で地方を襲い、伝統的村落を破壊し、日本全国どこへいっても地方独特の精神文化を喪失した同色同系の町が生まれている。

 しかし、我々は、今、東日本大震災を通して、改めてこの「我が事を後にして他人を思いやる」伝統的地方村落の美徳の価値を思い知ることとなった。日本人が長い年月をかけて、個人ではなく村落共同体を一つの生命共同体として作り上げてきたことが、いかに意味あることであったのかを、日本のみならず世界の人々が確認できた。

 そしてそれは、歴代天皇陛下の大御心「民安かれ、国安かれ」の祈りと直結している。いかに小さくとも、全ての村落が幸福に発展することを、君民一体となって祈り続けてきた結果が、美徳を慣習秩序とした日本国家を築き上げてきたのだ。

 それぞれの村落が覇権を争わず存続できたのも、全ての村落の美風を同様に尊重する天皇を上に戴いてきたからだ。

 我々は、今一度、このような日本人の美徳を思い起こし、被災地の方たちが、必死に伝統的地方村落を守り抜こうとしている声に応えていくべきであろう。そして、これを契機に、個人主義に基づいた金融経済論のような一つの価値観で、伝統的地方村落の美風を破壊することのないような社会作りを目指すべきではないだろうか。(あ)

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