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コラム「大和心」
世界が求める日本武道の価値

 8月14日から20日までの間、フランスにおいて国際武道講習会を開催した。講習会のテーマは「オリジン(元元)」である。

 これについて、講習会の企画代表者が熱く胸のうちを語った。「現代は市場中心のグローバリズムによって人類の正しい路線から著しく逸脱した時代」と定義し、「人類はおろか地球環境全体までも荒廃へと突き落とす危機に瀕している。今回のセミナーのテーマを『オリジン(元元)』としたのは、人間の本来の立ち位置に戻ることをテーマに据えたのだ」という。これは、氏やこの講習会に参加した欧州人たちが特別変わっているという訳ではなく、現代欧州人たちの深刻な問題意識を象徴したテーマ設定だと考えられる。

 人間の欲望をエンジンとして無制限にマネーの獲得競争を許容するグローバル市場は、極端な貧富の差を生み、少数の富裕者の特権を守り、多くの人々の権利を奪う仕組みを極限まで膨張させてしまった。この市場原理の中では、個と個の自由競争だけが重視され、社会や共同体という概念は忘れ去られ、消滅していく運命にある。

 こうしたグローバリズムへの反動が、移民排斥運動や偏狭なナショナリズムの台頭という現象としてすでに多くの欧州諸国で現われている。先のノルウェーでの大量殺人もその一つだ。

 国際武道セミナーの参加者たちは、こうした中途半端なナショナリズムを超えて、さらに本質的な民族の原点、人類の原点を探求しており、その「オリジン」を探す手掛かりとして、日本の神道と武道に注目しているのだ。彼らは日本の神道と武道の中に民族を超えて共通する本質的な普遍性を感じ、そこから民族の原点を探り出そうとしているのである。

 日本の武道とは単に戦闘能力を高めるためのツールではない。武道には、社会集団の中で自分自身の犠牲を美徳とする道徳観念を内包している。つまり武道は、戦闘者が単なる戦闘能力を持つ武者に終わらず、「世のため人のために尽くし」、道理を探求して実践する道へと導く生き方を教えているのである。

 今回の国際武道セミナーにはドルドーニュ県知事でフランスで青少年のスポーツ振興を担当する政府代表も研修に訪れた。彼は、日本の武道精神はフランスの社会と青少年に不可欠であると言明し、フランスの義務教育の中で青少年の健全な精神育成に役立てたいとの意向を示した。

 かれらは、世のため人のために生きる道を、武道を通じて青少年に学ばせることで、行き過ぎたグローバリズムで破壊されてしまった社会や共同体の再生に役立てられると考えているのだ。

 こうした武道の精神性は、日本の神道文化と不可分の関係にある。

 古事記・日本書紀の神話では、最初に現われる神「天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)」は、宇宙の中心に在り、すべての根源を表している。その中心に霊的かつ物的エネルギーが集約し放出されることで万物が生じ、発展するという考え方である。この天地・万物を生成、発展させる霊的な働きを、神道では「産霊(ムスヒ)」と呼んでいる。

 この産霊の活動の中から生まれた霊のことを「直霊(ナオヒ)」と呼び、私たち全員が「直霊」の存在である。

 私たちは、「直霊」をたずねていけば皆同じ「元元」に帰一する。だから、一人ひとりは全体の発展活動の一部を担う存在で、個々の努力はそのまま社会全体の発展に寄与すると考える。各自の身体は社会全体・地球全体に貢献するための直霊の顕現である。このように、自分の中にある直霊に従って生きるのが正しい道であるというのが神道の教えである。

 この神道の発想は、武道の鍛錬と共通している。武道においては「腹を鍛える」と言って臍下丹田に意識を集中することによって、そこからエネルギーを出す鍛錬を重ねるが、これはそもそも直霊の力を出すという発想に基づいている。

 こうした神道の教えに基づく武道においては、そもそも自他に優劣は存在しない。他者も自身と同じように直霊を持ち、各自が体内に神性を内包しているからである。

 これは究極的な平和主義に繋がる思想でもある。武道が単なる戦闘技術とは異なり、相手をも活かす精神性を備えているのは、こうした神道の教えに裏打ちされているからだ。

 欧米の自然権(人権)による近代的コミュニティは、絶対的存在の個々の集団が契約的に集団化しているにすぎず、契約規定とも言える法治システムがその実効性を失ったとたん、社会秩序は皆無となり略奪・強盗・殺人が当然の如く発生する。また、非常時におけるそのような行為を人権思想では正当とみなす。

 それとは異なり、日本の伝統的村落は精神的な側面が強い集合体である。そしてこの社会の強さは、東日本大震災における地方の団結力や精神性の高さに現われていた。近代的法治システムとは無関係に社会秩序は高度に機能し、それどころか、わがことよりも人の安否を気遣い助けようとする。セミナーに参加した欧州の人々は、この日本人の姿に激しい衝撃を受けていた。

 かつて、内村鑑三は、「(武士道は)日本における唯一の道徳・倫理であり、かつ、世界最高の人の道」と述べ、「日本武士は、その正義と真理のため生命を惜しまざる犠牲の精神に共鳴して神の道に従った。武士道があるかぎり日本は栄え、武士道がなくなるとき日本は滅びる」とまで断言した。

 今、世界がこの奥深い普遍的原理の存在に気づき、日本に目を向け始めている。

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