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【平成19年】

秋号

幼い日の思い出に刻まれた

風、光、響き、香り、肌ざわり-。

豊かな自然の中で、

様々ないのちが織り成す美しい情景は、

言葉を超えた大切な何かを

私たちに教えてくれた。

どのような風土が、

 

私たちを生かし、

慈しんでくれたのか?

 

日本人が心の支えとしてきた情景とは

いかなるものだったのか?

 

いま、旅立ちたい、心の原風景へと。

 

 

『代々木』は、明治神宮・明治神宮崇敬会が発行する季刊誌です。

我が国の美しい伝統精神を未来に伝えるため、昭和35年より刊行をつづけております。

明治神宮崇敬会の皆様にお送りしております。

 

[明治神宮崇敬会のお申込み]

「日本人の原風景」
「日本人の原風景」

近年、雀の声で目を覚ますことがなくなった。ひぐらしの声もめったに聞かない。秋が更けても鵙の鋭い啼き声を耳にしなくなって久しい。虫の音さえめったに耳に止まることはない。深夜、コオロギの声に心動かされることもなくなった。都会に生活していると、一日一日、自然から遠ざかって行くような気がしてならない。

 

このごろでは一戸建ての家もマンションも、遮音性を厳重にしてピタリと窓や戸を閉めてしまうから、隙間風が通わなくなったと同時に、これらの声も耳遠くなってしまったのであろうか。

 

そんなことはない。実際にこうした自然の声が、もう響いてこなくなってしまったのだ。そのかわりに、電子機器の人工音が私たちのまわりを不断に流れている。いまや生活のスタイルがまったく変わって、日本人の暮らしの中にあったさまざまな情景が、いつの間にか失われてしまった。

(後略)

 

※インタビュー抜粋です。『代々木』をお読みになりたい方は、崇敬会にご入会下さい

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森本哲郎(もりもと・てつろう)

大正14年、東京都生まれ。東京大学文学部哲学科卒、同大学院社会学科修了。朝日新聞入社、学芸部次長、朝日新聞編集委員を経て、昭和51年退社。以後、評論、著述に専念。昭和63年~平成4年、東京女子大学教授。著書に、『ことばへの旅』『そして文明は歩む』『森本哲郎 世界への旅』『ある通商国家の興亡』『生き方の研究』『懐かしい「東京」を歩く』『神の旅人』など多数。今秋、『日本の挽歌』が『日本人の暮らしのかたち』(PHP研究所)として復刊される。

「美しい記憶をつなげるために。」
「美しい記憶をつなげるために。」

遠い昔から続く日本の美しさ。これは、まさに神様が授けてくれたものだと思います。

日本という国は、四季の移り変わりがとてもダイナミックです。はじめて来日した時、九ヶ月かけて縦断しましたが、その美しさに一目ぼれしてしまいました。春夏秋冬の素晴らしさは、世界一だと思います。

 

太古から連綿と続いてきた大地と人間の緊密な関係が、日本独自の文化を形づくったと思います。

 

稲作は、まさにその文化を代表するもの。自然環境を壊すことなく、その恵みを得て生計を立てる秘密を見いだした人々に、私は心から敬意を抱きます。まさに彼らは日本古来の魂を持ちつづけています。

(後略)

 

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ジョニー・ハイマス

1934(昭和9)年イギリス生まれ。体育教師を経てアクロバット・エンターテイナーとして世界各国を旅した後、ハリウッドにて写真を学びスタジオ開設。昭和49年から日本に定住。日本の美しい自然及び文化の保護の大切さを発信し続けている。写真集に『田舎』『風景』(学研)、『たんぼの季節』『日本の四季』(主婦の友社)、『鳥居のある風景』(東方出版)、『美しい国』(求龍堂) 等多数

インタビュー「ふるさとは、こころの座標軸。」
インタビュー「ふるさとは、こころの座標軸。」

進士 五十八(東京農業大学教授)

■「農」の力

―先生は、農業に携わる方の能力の多彩さをおっしゃいますね。

進士 私は独自に「ひゃくせい百姓」を定義しています。「百」はたくさん、「姓」は苗字、職業、専門的能力です。たくさんの能力がなければできない仕事だし、又たくさんの能力を発揮できる仕事が「百姓」なのです。

 

農業では土や作物のこと、肥料から気候までいろいろ全部わからないとできないし、穫れた物の商売もしないといけない。共同で農作業をするには「ゆい結」という組織があり村の鎮守のお祭の世話役も当番でやる。ですから、ボランティア精神も旺盛です。人間として生まれた能力のすべてを発揮しなければ生きていけない社会だったと思います。生きる手ごたえは十分だったでしょう。

 

皆さんは、一体「何姓」でしょうか? コンピュータしかできない人はコンピュータ「一姓」です(笑)。

 

いまの日本の食糧の自給率は40%を割る。農業に携わる国民は3%以下です。あとはみんな寄生している。私も皆さんも含めて。本当に働いてものを生み出してはいない。流通させてマージンを取るか金融か投資かです。ものをつくる人は本当にわずかです。みんなが「二、三姓」どまりになっている。そこで、日曜農園をやったり、街をジョギングしたり、一生懸命レクリエーションをしながら、精神と肉体のバランスをとりたい、トータルマンをめざしたいと努力している。

 

現代の分業化社会で、多くの人たちは、本来もっている能力のごく一部しか発揮できずに欲求不満とストレスの中で生活しています。両親からもらったすべての能力を思い切り発揮したいと思うのが、人間の姿です。だから、「百姓」になろうと呼びかけているわけです。

(後略)

 

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進士 五十八(しんじ・いそや)

昭和19年、京都市生まれ。東京農業大学卒業。農学博士。平成11年から6年間同大学学長。日本学術会議会員。自然再生専門会議会員、社会資本整備審議会員。NPO法人の日本園芸福祉普及協会理事長、美しい国づくり協会理事長、社叢学会副理事長など。著書に『アメニティ・デザイン』『「農」の時代』『風景デザイン』(以上、学芸出版社)、『日本の庭園』(中公新書)ほか多数。