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【平成20年】

秋号

『代々木』は、明治神宮・明治神宮崇敬会が発行する季刊誌です。

我が国の美しい伝統精神を未来に伝えるため、昭和35年より刊行をつづけております。

明治神宮崇敬会の皆様にお送りしております。

 

[明治神宮崇敬会のお申込み]

戊申詔書の渙発から100年  いまこそ明治天皇の大御心を体し、「人心の倦怠と軽佻浮薄」の打破を
戊申詔書の渙発から100年  いまこそ明治天皇の大御心を体し、「人心の倦怠と軽佻浮薄」の打破を

阪本 是丸(國學院大學教授)

一、戊申詔書渙発の時代的背景

今から百年前、そしてかの五箇條の御誓文が布告されてから四十年目の当たる明治四十一年十月十三日、明治十五年の軍人勅諭、明治二十三年の教育勅語に匹敵する重大な詔書が渙発されました。渙発された年の干支である「戊申」に因んで戊申詔書と称されています。

この戊申詔書が渙発された明治四十一年前後の日本は、日露戦争での勝利によって一躍「世界の一等国」を仲間入りを果たしたのですが、明治天皇が、

 

ともすれば うきたちやすき 世の人の

こころのちりを いかでしづめむ

 

とお詠みになったように、戦争気分に酔い痴れたままの「軽佻浮薄(けいちょうふはく)」が当時の風潮を支配していました。真の一等国として世界の列強と相互して強調し、文明の発展を担い、享受するために、まずは日本の国力を充実すべく国民すべてが努力すべきなのですが、それは言うは易く行うは難しいことも現実でした。

(後略)

 

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阪本 是丸(さかもと・これまる)

昭和25年生まれ。國學院大學大学院修士課程修了。博士(神道学)。國學院大學研究開発推進機構長を兼ねる。著書に『明治維新と国学者』(大明堂)、『国家神道形成過程の研究』(岩波書店)、『近世・近代神道論考』(弘文堂)など。

十二徳の実践者 「博愛」
十二徳の実践者 「博愛」

福島 孝徳(脳外科医)

(前略)

現在、アメリカに拠点をおき、世界各国で手術と後進育成に努めている。手術に際しては白足袋を履き、両手両足を使って驚くべき速さで手術をおこなう。白足袋は動かしやすさだけでなく、「手術は神聖なもの」との思いがある。手術が早ければ患者の負担もその分少ない。また、命を支える血液は一滴たりとも無駄に流さないという信念と繊細な脳の視界を保つために、止血を徹底する。福島医師の手術はつねにきれいで清潔だ。そうしたところに日本人ならでは、神道の精神を彷彿させる。

 

学校に行くときには社殿の方に向かって挨拶をしなさいという教育も小さい頃から受けました。父が明治神宮に尽くした人でしたし、私が生まれて育った場所ですから、私にとって神様というのは明治神宮。

脳外科医というのはひじょうに厳しい職業で、自分の判断がほんの少し狂ってもメスさばき、剥離が紙一枚狂っても、患者さんが歩いて家に帰れるのか、命がないのか、きまってしまうんですよ。私は「神様、どうしたらいいんですか。助けてください」と心の中で言いながら手を動かしている。

手術のときは神様に祈る。スポーツをしていて勝ちたいときは「お母さん」って言っている。違うのね(笑)。

明治神宮には折に触れて参拝しています。朝早く、人がいない時間が好きです。一月一日はなるべく参拝するようにしています。いま、一週間に八日間働いているといわれますが、土日もありません。特に日本にいるときは土日が他の科の休みになるので私の手術がたくさん入る。大晦日まで手術しています。だけど、元旦は手術をしてくれる病院が全国どこにもないので、お参りできるんです。

現在、年に六百人の難しい手術をしています。昔は九百人の手術をしました。今は本当に難しい、綱渡りのような手術が多い。六百人のうちに三人くらい、私の望まない麻痺が出たりします。一所懸命に全力を尽くしても、何かこう、人の力の及ばない、予期しないことが百に一つは起こります。それを限りなく、なくしていきたい。(後略)

 

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福島 孝徳(ふくしま・たかのり)

昭和17年生まれ。同43年、東京大学医学部卒業。現在、カロライナ脳神経研究所およびカロライナ耳研究所共同所長、デューク大学・ウエストバージニア大学(アメリカ)の教授、カロリンスカ研究所(スウェーデン)・マルセイユ大学(フランス)・フランクフルト大学(ドイツ)の兼任教授など要職を多数務める。今年7月には『神の手のミッション 福島孝徳 すべてを患者さんのために捧げた男』(徳間書店)が刊行された。

戦後復興の軌跡 最終回 蘇った代々木の杜 インタビュー 復興五十年記念催事「アカリウム」に思いをこめて
戦後復興の軌跡 最終回 蘇った代々木の杜 インタビュー 復興五十年記念催事「アカリウム」に思いをこめて

面出 薫(照明デザイナー)

面出先生と明治神宮とのご縁は、平成十八年の表参道をライトアップした「アカリウム」で照明デザインを担当なさったことからでしょうか。

 

そうですね。表参道というのは、明治神宮にとって大切な参道なので、そこで何か照明デザインをするとすれば、イルミネーションのようにキラキラしたおのではなくて、やはり神宮に繋がる和の心が伝わるような演出をしたいと考えました。それで行灯という和の「明かり」をモチーフにしたのが、「アカリウム」でした。

復興五十年を記念した今秋のアカリウムでも、明治神宮を煌々(こうこう)と照らし出すのではなく、むしろ神宮の本当に綺麗な闇を皆さんに感じていただけるような、そんな明かりを点したいと思っています。

(中略)

だから秋の「アカリウム」でも出来るだけ時代を先取りして、環境に優しく、僅かなエネルギーでも皆さんの気持ちの中に光が入ってくる、そして闇の大切さが感じられる、そういう夜間参拝を実現できればと思っています。地球環境を考える意味でも、意義のある取り組みにしていきたいですね。

僕自身、神宮前に事務所を構えて十三年になります。この街は本当に稀有な街、珍しい街じゃないかって最近思うんですよ。一方では最先端のファッションを世界中に発信している中心である。でもそれと同時に、古い住宅も多くて大勢の人が住んでいらして。そして、明治神宮との繋がりという、脈々と続いているものがある。地元の方の街に対する深い思いやりというものを強く感じています。明治神宮復興五十周年を記念するアカリウムも、そういう皆さんの気持ちが一つに集まって実現するもの。この輪をどんどん広げていくことが大切ですね。そう考えると今回の試みは、これからの鎮座九十年、百年へと繋がっていく、そのプレイベントともいえるかもしれませんね。

 

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面出 薫(めんで・かおる)

昭和25年東京生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科修士課程修了。平成2年、ライティング・プランナーズ・アソシエーツ(LPA)を設立。現在、LPA代表。武蔵野美術大学教授。住宅照明から都市・環境照明まで幅広く手がけ、国際照明デザイン賞優秀大賞など受賞多数。平成18年、行灯をモチーフにした照明で表参道をライトアップする「アカリウム」をプロデュースした。