明治天皇の御尊像
大正元年8月、前宮内大臣田中光顕(たなかみつあき)から明治天皇の御尊像を制作することが発案されました。その理由は、
「先帝陛下の英姿を後世に伝えることはもとより、先帝崩御の後、悲しみに沈まれておられる皇太后(昭憲皇太后)を慰め申し上げるには、お近くに御尊像を奉安するのが何よりの方策である」
というものでした。
協議の結果、明治天皇が大元帥の正装でお立ちになったお姿の御尊像を制作することが決まり、彫刻家の渡辺長男(わたなべおさお)の手によって宮中牡丹の間で制作されることとなりました。
制作にあたり、資料の採集を総務課および陸軍参謀部写真班に依頼しましたが、明治天皇のお写真が数枚得られたものの、いずれも鮮明ではなく、その他の多くは肖像画の複写でした。とくにご晩年、天皇は撮影を好まれなかったため、御尊像制作のための資料は不充分な状態でした。
しかしこの時、昭憲皇太后はお手許より5枚のお写真を提供され、これが制作にあたっての貴重な資料となりました。
渡辺長男は連日牡丹の間に出仕して、高等女官や侍従の意見を受けながら制作に専念し、また昭憲皇太后は終始この事業にご助力になり、2度にわたってご意見を賜ったのでした。
明治天皇御尊像(渡辺長男作・明治神宮蔵)
